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木造で和風な店内の壁には、170センチの俺の頭一つ上くらいにメニューの札が張ってあり、それらは中々に年季が入っている。いい雰囲気の店だ。
その店の中、旧友達は各々語り合い、生気に満ちた顔でこの貴重な時間を過ごしている。
容姿がすっかり変わった同級生が多くて、かろうじて面影のある人物しか判らない。赤井は小学校の頃から明るく、俺の記憶の中では一番よく憶えていた。
他にも憶えている人は憶えているけれど、今の顔と昔の顔が一致しない。そもそも人と目を合わせること自体が苦手だった小中学校時代だった訳で、あまり人の顔を見ていなかったのが、誰が誰だか判らない原因だろう。
参ったな。誰にも声をかけにくい。どうしたものか。とりあえず、俺もなにか飲み物でも頼んでおこうか。
全員二十歳になった訳だし、ここはお酒を頼むべきなんだろうなあ。でも、酒は苦手だ。以前に一口飲んで、自分には高尚な飲み物であると思い知らされた訳だし。水でも貰おうか。
視線を店内に彷徨わせていると、自分の座る座敷席ではないもう一つの座敷席で、一人お酒とつまみを黙々と食べる、黒一色という一風目立つ服装の女性がいた。
その女性は目鼻立ちが整っているものの、どうしてか美人とは感じられなかった。好みの問題もあるんだろうが、なによりも顔半分を覆っている包帯が原因なのではないかと思う。
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