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外に出ると、冷たい空気に身を震わせることになった。戸を閉めると、中の音は一切聞こえなくなる。
通行人は少ない。空は黒一色だが、電気的な灯りのおかげで相手が判断出来る程度には明るかった。
肩を叩かれ、振り向くと着いて来た内田が申し訳なさそうに立っている。
「ごめんなさい。美鈴が迷惑かけて。後は私がどうにかするから、藤沢君は中にもどっていいよ」
「え、ああ――」
「待って。私が連れてきたの」
間延びした声ではなくて、しっかりと話す彼女の言葉に驚いた。内田は目を丸くしたが、すぐに怒ったように眉を顰める。
「ちょっと、美鈴? あんたまさか!?」
「ごめん、彩ちゃん。私もう無理だよ」
ぼろぼろと大粒の涙を流し出した長谷川を、内田は責め立てる。
「あんたねえ! ここで諦めていいの? またあの手紙がくるかもしれないんだよ!?」
「手紙?」
「うるせえな! あんたはどっか行ってて!」
今まで大人しそうにしていた内田が、不快そうにそう吼える。剣幕に気圧されながらも、ここで怯む訳にもいかなかった。
「俺は彼女に呼ばれたんだ。君が勝手に着いてきたんだろう? どこかに行くなら君のほうじゃないのか」
「あんたさあ、今すっごく邪魔なの。理解してくれる?」
「止めてよ! 私、二ヶ月くらい前から変な手紙送られててね、それを止めて欲しければ今日この格好と口調で、いろんな人と絡めって」
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