631人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
今までの経緯を説明すると、渡辺は鼻を鳴らした。
「ふん、成る程な。組んでいやがったのか。だが、なんでだ? なんで隠す?」
「それがわからないんだ。だから、他の人にも話を訊いてーー」
「そんなことしてても埒があかねえだろうが! おい賢二!」
坂井が驚いたようにこちらを向いた。渡辺は席を立ってその前に仁王立つと、重圧感のある体で彼の視界を釘付けにした。
「お前、なに隠してやがる」
「なんだよ康仁。いきなりワケわかんないんだけど」
「とぼけてんじゃねえぞ。赤井もだ。そいつ、誰なんだよ」
渡辺を焚き付けてしまった。しかし、結果として事態を一気に動かすことになったらしい。坂井は焦ったように立ち上がった。
「はあ!? 意味わかんね。正哉に決まってんじゃん。なあ?」
「そうだよ。いきなり怒鳴るからなにかと思ったじゃねえか」
誰かに同意を求めた坂井に、赤井がすかさずそう答えた。
「嘘つくんじゃねえぞ! こいつは正哉じゃない!」
店内に怒声が轟く。空気が震えたような気がした後は、全員が口を閉ざし、誰もいないと錯覚するほど静まり返った。
坂井が頻りに赤井に目配せしている。赤井もそれに反応しているが、それに対しての返答はしない。
「黙ってんじゃねえぞ」
「お前さ、物事には段取りってもんがあってだな」
「うるせえ! 耐えられるかよ、いつまでも! 隠してないでとっとと話しやがれ!」
その会話に違和感を感じた。段取り? なんのことだろう。
最初のコメントを投稿しよう!