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犬川が立ち上がり、渡辺の目の前まで迫ると、思いっきりその頬を引っ叩いた。渇いた音が耳に障る。
「なにすんだよ!?」
「この単細胞! 早いでしょうが!」
「暢気に話し込んでるお前らはいいだろうぜ。俺達は常に緊張しっ放しだったってのによ!」
「私達だってねえ、緊張はあるわよ。大体、一応同窓会なんだから少しくらい騒いだっていいでしょ」
「それにしたって行動が遅いんだよ。こいつ、もう独自に探り出してんだぞ。お前らが主導でやる手はずだろ?」
「え、嘘?」
犬川が俺に驚いたような目を向けた。
「餅太! 菊地に鍋島、それに長谷川に内田。お前ら、話してたろ? なんで言わないんだ」
赤井も驚いたように全員を見渡しながらそう言った。
「私、言おうとしたのよ。でも、その前にあいつがさ」
「ていうか、皆して目的忘れて楽しんでたせいなんじゃないのお?」
「そうよ、アタシ達のせいにしないで」
「言うのは――自粛したわ」
言い訳や批判の声が飛び交った中で、鍋島の言動はよく耳に残った。全員の視線が彼女に向けられる。
「こんなに面白いこと、そうそうないじゃないのさ。折角楽しんでたのに、せっかちな奴だね渡辺は」
「お前な、全員で連携しないといけないことだろうが」
互いに非難しあう中で、俺は酷く混乱していた。どういうことなんだ。
話を聞いている限り、全員が俺にあの男のことを知っていて、俺が彼に疑念を持つように仕組まれていたのか?
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