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「どうして、皆嘘を吐くんだ」
独り言のように小さい声だったけれど、非難の応酬を止めるには充分だったらしい。
「あ、えと、あのな」
赤井がしどろもどろと答えようとしたが、中々言葉は形成されない。
俺が皆を見渡せば、ほとんどが俺と目を合わせようとしなかった。一人、草野を除いて。
「草野さん、知ってたの?」
「いいえ」
素っ気無く、そして即答だった。
「皆知っているみたいなんだけど」
「私は知りません。でも、隠し事をしているのは知っていました。内容は解りません。
私、嘘は吐きません。嘘を吐けないんです。嘘吐くの、下手なのですぐバレてしまうんです。
だから、今言ったことが私の知る全てです」
真顔で、一切目を動かさない草野には、言いえぬ不気味さがあった。だが、確かに嘘を吐いていなさそうだ。
もしかしたら、騙されているかもしれない。そう考えもしたが、こうもきっぱり言われてしまってはこれ以上のことは話してくれないだろう。
「じゃあ、誰なら俺に説明してくれる? 一体どうして俺を騙しているんだ。なぜ嘘を吐いたんだ?」
答える人はいない。静けさの中で、ようやく口が開かれたのは、それから数分後だった。
「私はね、そんなに知らないの」
犬川だ。男勝りな彼女にしては、しおらしい態度で話し始めた。
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