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「じゃあ、今の職業は?」
「会社勤めだよ。販売部門に属してる」
「どうやってそこに入ったの?」
「高校にいる間、求人表を見て、面接を受けて……」
「高校生活はどうだった?」
「ちょっと待ってよ。さっきから、質問の意味が解らない。どうしてそんなこと聞くの?」
犬川は真剣な面持ちで俺を注視している。俺には答えを聞き返せなかった。
「こ、高校では新しい友達を作って、勉強して、遊んだりさ。皆と大体同じだよきっと」
「鮮明に思い出せる?」
「まあ、うん。うろ覚えのこともあるけど、大体はまだ思い出せるよ」
「うん、ありがとう。現在のことはしっかり解るみたいね」
「どういうこと? 訳がわからないよ」
周りを見れば、全員が俺と犬川に視線を注いでいる。店主もただならないことだと察したのか判らないが、こちらを眺めている。
ここで、改めて店主の顔を見て気が付いた。どこかで見た顔だ。
眼鏡をかけた初老の男性で、太い眉が特徴的だ。髪は後ろに流した短髪で、白髪が混じっている。
店主は俺が見ていることに気が付いたのか、笑って会釈をしてくれた。
記憶を辿る。無数の写真が散らばっているような、今まで蓄積した記憶が頭の中を巡っていく。その中で、店主と同じような雰囲気の男がいた。
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