631人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
もう、飽きるだけ念を押されている気がするが。とにかく、もう俺には前しか見ることができない。
彼の問い掛けに、俺は深く頷いた。
「じゃあ、話すよ。後悔なんてしないでほしい。君が望んだことなんだから。
まずね、はっきり言わせてもらうと、君は藤沢優輝じゃない」
「え?」
何を言い出すかと思えば、俺が藤沢優輝じゃないだって? 冗談にしてもつまらない。
「信じられない、といった顔じゃないか。でも、言ったはずだよ。僕達は真実を語るってね。
君の目の前にいる僕は、君が眠ってる間に生まれたんだ。君がいない間は、主導権を握らせてもらったよ」
「なに、言ってるんだ? 主導権って?」
「だからね、君の代わりに、僕が表に出ていたんだ。でも、君が起きたからね。もう必要ないよね」
理解が追い付かない。こいつは賢しい顔で、涼しく何事か言葉を吐いている。でも、俺にはそれが理解できない。
意識が薄らぐような気分に陥った瞬間、目の前の彼に肩を掴まれた。
「逃げるなよ。君はいつもそうだった。なにか嫌なこと、理解したくないことがあると、必ずそうやって僕達に押し付けるんだ」
「逃げるなんて!」
「事実じゃないか。君はいつもそうだよ。指摘すると怒って、塞ぎこんで」
なんなんだ、この男は。人のことをさも解っているように。大体、嫌なことをどうして他人に押し付けられるというんだ。
最初のコメントを投稿しよう!