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唖然としているのかもしれない。自分の表情は見えないけれど、それでも今、快活に話す彼を凝視するしか俺には出来なかった。
無慈悲なほどの速度で、俺の心を抉っていく。思い出したくないことをほじくりかえしてくる。
「意味が解らない、解らないよ!」
「喚かないで欲しいなあ。ここは静かにしなきゃいけないんだから」
「どうして?」
「ははあ、君はまだ解っていないのか。困った奴だよ君は」
馬鹿にしているようにして、彼は笑った。不意に肩を叩かれて、体が跳ねる。
「手紙の話、したよね」
長谷川だ。
「ああ、それがなに?」
「あんた、解らないのね。本当に解らない?」
「なんなんだ、内田さんまで加わって。それは君達が抱えている問題じゃないか」
「私達は、あんたなのよ」
また理解しがたいことを言う。内田達が俺だって? そんなこと、あるはずが無いんだ。
店内を見渡してみれば、彼らは俺を不審者でも見るような目で見ている。
不愉快である半面で、段々と不安が増してきた。言っていることに理解は及ばないが、それでもこの場の状況がおかしいことは確かに感じ取れる。
「君達が俺だって? どういうことなのさ。俺が手紙を受け取っていたっていうのかい」
「そうよ、その通り。その度に、美鈴が出ていたけど。正確にはあんたじゃない。でも受け取っていたのよ。自覚がないだけでね」
「出ていたって、なんだよ。変じゃないか。自覚もなしに手紙なんて受け取れるはずがないよ」
「だから、あんたの変わりに美鈴が受け取っていたんだってば。本当に往生際が悪いんだか頭が悪いんだか」
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