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ベッドの脇にある棚。ちょうど俺の手の届く範囲に、小さめの鏡が置いてあった。
それを覗いて、絶句する。そこには彼とそっくりの自分が映っていた。
「お、同じ顔だ……! 待てよ、どうして、なんで!?」
困惑した俺の頭では、もはや状況なんて理解不能だった。どうしようもないほど取り乱す。
「まあまあ、僕が消える前に話すのはね、君は藤沢優輝じゃない。じゃあ誰か。答えは消去法さ。クラスメイトは十二人。残っているのは誰だい?」
「田口、正哉」
「それが君の名前で、真実さ」
「嘘だ。そんなこと、ありえるはずがない。だって容姿が昔と違う」
「それはそうだろう。だって君は藤沢優輝を名乗っていたじゃないか。僕を田口かと疑っていたじゃないか。
それはつまり、子供の頃も逆に考えていたんだろう? 容姿が違うと感じて当然さ。僕がこの姿でいるのはなぜだと思う。君にそれを説明するためだよ。
理解してくれたかな。僕が持っているのはね、君自身の容姿や性格、本名なんかの、君が君であるために必要なものだよ。
多少は君にも残っていたんだけどね。田口正哉に関連した人物にだけ、やたらと覚えていたんじゃないかな?」
急激に頭が覚醒した。透き通る風が吹き抜けたように気持ちが爽快になった。
俺は、田口正哉だ。記憶が、それこそ真実だと告げている。
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