濁った真実

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「手紙を読めばいいんじゃないですか。貴方に送られたものです」 「な、なんだ? 長谷川達が言ってた手紙を知ってるのか?」 「ええ、解りました。多分、手元にありますよ。あるんです。ないはずがないのです。よく見てください。手触りを確認してください。分かりますよね? 見えますよね? なにが書いてあるか、見えますよね?」  俺は手元を見遣る。しかし、手紙なんてない。なにもない。なにも見えない。 「なにも、ない」 「嘘です。あるじゃないですか。貸して下さい。読んで差し上げます」  草野は俺の手元から、なにかを引ったくるように空中を掴んだ。 「これは夢。妄想。嘘偽りの世界。貴方は貴方自身に騙されている――と書かれています。 たくさんありますね。これは怖いです。 貴方の覚醒を促すものばかりです。貴方に現実に戻るよう強要しています。 でも、さっき読んだものは貴方を助けようとした誰かのもののようです。良かったですね。 さあ、早く現実に戻らないと」  何度も目を細めたが、草野の手元にはなにもない。彼女の言うことなど信じられないが、でも、それでも、俺は。 「そう、だな。どうしたら現実に戻れるのだろうな」  すがりたい。こんなのが現実だなんて嫌だ! 足がなくて、友人もいない、老いた家族だけがいるこんな世界に、俺は今後希望なんて持てるはずがないじゃないか!
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