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そうだ、きっとそうだ。だっておかしいだろう、あいつらの声が聞こえるなんて。死人に口はないんだ。
そうさ、俺が死ぬ必要なんてない。
「恐いのですか?」
俺は目を見開き、ナイフから草野へ視線を移す。彼女の目は、俺の心を見透かしたように、大きく開いていた。
「恐くありません。だって夢なんですから。
怖くありません。だってこれは貴方の妄想の世界なんですから。
どうします? 止めますか。それとも、現実に戻りますか?」
ああ、理解した。彼女の目をしっかりと見て、理解した。彼女は俺と同類なのだ。
どこか、別の世界が彼女には見えている。そして、それに依存して生きているんだ。だから、彼女は現実に見えないものが見えている。
俺も同じなのか? これは、現実なのか、妄想なのか。彼女は実在しているのか? 俺が、自分と同じ仲間が欲しくて生んだ、妄想の産物なんじゃないのか。
現実、妄想、実像、虚像。
どっちだ。俺は今、どちらにいるんだ。どちらを見て、どちらを感じている?
「私はそろそろお暇しますね。では、またどこかで」
妖しく微笑む草野は、そのまま病室を去っていった。旋風のような女性だ。
自分に触れる。肌は柔らかく、温かい。これは生きている証拠だ。なら、これは現実?
いや、あの妄想の中でも、温かいものは温かくて、冷たいものは冷たかった。
俺を呼ぶ声がする。あの手紙の謎を突き止めろと声がする。ああ、そうだ、約束したもんな。
きっと、あの中の誰かが犯人なんだ。なら、あいつらがいないといけない。
でも、あいつらは現実にいるんだ。なら、俺は早く夢から覚めないと。
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