序章 響乃琴美編

12/30
前へ
/36ページ
次へ
両腕が痺れて上手く動かない。なんとか壁から背中を離すとビリビリと走る電気のような痛み以外、背中の感覚がないことに気付く。 ドォン!! 空ではまさおと鞍馬が一対一で戦っていた。二人の拳がぶつかり合うたびに空気が歪み、風が舞い上がる。 私は蚊帳の外だった。敵もとどめを刺そうと思えば簡単だったはず、しかし私には目もくれずに嬉々とした表情でまさおと戦っている。いつも……そうだ。 現実世界ではそれなりに充実した生活を送っていた。成績も運動も、どれをやってもそつなくこなせるし人当たりも良いので友達も多くいた。 でも……この世界ではそんなもの、何の意味もない。ただ器用なだけじゃどうしようもない力の差があった。 「くそ……私は……」 湿った背中からコンクリートの欠片がぱらぱらと落ちる。皆、戦っている。 私だって…… 「ぐぅ」 痛みを堪えて立ち上がる。怜美さんと出会い、怜美さんに教えてもらった全てを振り返る。 「琴美、夢の中で戦うとき一番重要なことはね。自分を好きになること。自分なら出来る、出来ないわけがないって信じること。強さも弱さも知ってる琴美は誰よりも強くなれる……」
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加