序章 響乃琴美編

19/30
前へ
/36ページ
次へ
「羽が邪魔で急所にはいかなかったか……残念」 女は悪戯っぽい笑い声と共に再びコウモリ傘の後ろに姿を隠した。 「ううう……」 声を出さなければいられない程の痛み、傘はまだ脇腹に刺さったままだ……。 しかしそれよりも鞍馬を貫いた右手の生々しい感覚が残っている。 初めて人を……消した。 「怜美さん……」 思わず弱音が出てしまった。いけない……怜美さんだって今戦ってるんだ。 戦わなきゃ……。 怖い、自分自身が怖い。この世界での死は現実世界での脳の死、つまり二度と目覚めない体になってしまう。私が一人の人間を殺したんだ。でも、こうするしかなかった。 向こうはもう何人もの事情を知らない人々を葬っている。やられて当然……。 今は戦いに集中する……。脇腹の痛みが幸運なことに私から考える余裕を奪ってくれる。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加