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「ただいま」
お父さんはいつもそう言うけれど、自分の家じゃないのにそう言うのが私はどうしても納得できない。
家の中は少し湿気っていてタンスの防虫剤みたいな臭いがする。
「おぉ、よう来たなぁ」
Lの字を逆さにしたような腰でおばあちゃんが奥の部屋からやって来た。たくさんシワのついた顔は、目が開いてるのか閉じてるのか分からない。
そんなおばあちゃんと目が合った気がして、私はすっとお母さんの後ろに隠れた。
「おぉおぉ、シノちゃんけぇな? おっきぃなったなぁ?」
「……」
黙っているとお母さんが無理矢理私を前に押し出す。
「ほら、おばあちゃんに挨拶しなさい」
「……ぉはょぅござぃま……」
おばあちゃんが耳なのかシワななか分からない耳を私に向ける。
「ちゃんと!」
お母さんの口調が少し強くなった。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
おばあちゃんは顔を梅干しみたいにしてにっこり笑った。
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