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──真理学園部室棟、文化部側廊下。
悲痛な思いを胸に、一条ゆかりは一人、まだ人気のない廊下をうろついていた。
彼女が向かっていたのは、探偵部といういかにも胡散臭い部室。そこにいる探偵擬きに、ある依頼をするかすまいか、かれこれ五分少々の葛藤を繰り返していたのである。
「はぁ……」
ため息ばかりが雄弁に、彼女に降り積もる憂鬱を物語る。
しかし、無理もない。
自分の想いを寄せている人物が、女性と思しき人物と仲良さげなメールをしていたとなれば、誰だってため息をつきたくもなる。
いや、少し語弊があった。
彼女の想い人である天海潤は、ゆかりが嫌疑をかける女性とそれらしいメールのやり取りをしたわけではない。
正しくは、彼はそのメールを受け取っただけなのであるが、そうであることを確かめる術を持たないゆかりにとっては、それはどちらも同じこと。
天海が他の人に好意を抱いているかもしれない。
それは十分に、彼女の気持ちを沈ませる要因たり得るのだ。
人を想うとはかくも辛いものであり、輝かしい出来事ばかりではないのだと、わかってはいながらも、わき上がる想いに歯止めはかけられず、実に十代らしい青い迷路に彼女は迷い込んでしまっていたのである。
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