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「飲み直そーぜ」
そう言った俺に、羽村は笑って快諾した。
足元はふらついているが、信じられないくらいご機嫌だ。
「神谷さんと話せてたじゃねーか」
「うんっ! もー、すっごい、ドキドキしたあー!」
「……そーかよ」
そうは言いながらも表情は明るい。
俺はこの苛立ちの正体を見て見ぬふりしながら、「どこ行く?」と聞いた。
「んー、どーしよっかー」
「どっかゆっくりできるところがいーよな」
「そーだねえ、さっきまで、めちゃくちゃ緊張してたし!」
上機嫌で笑う羽村は、俺のことを見ていない。
一緒にいるのが俺だということはわかっているだろうが、さっきまでの神谷さんとの時間が余程嬉しかったんだろう、ずっとその気分を引きずっているように見えた。
ざわざわ、騒ぐ胸が、この感情に名前をつけようと忍び寄る。
俺は羽村にわざと意地悪い笑みを向けた。
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