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あの夜のことは、自分で思い返しても卑怯で情けない記憶しかない。
ある意味、誘導するようにして侵入した羽村の部屋で。
自分でも説明できない感情が渦巻いて、衝動的に手が出そうになるのを堪えて。
ぐらぐら頭が揺れるくらい酔っ払った羽村を引き寄せたくて、でも出来なくて、自問自答を繰り返して、ただ酒を喉に流し込むばかりで。
俺はこんなに葛藤して一歩踏み出すのも戸惑われているというのに、隣の羽村が何も感じていないのがまた歯痒くて。
飲み足りなくて飲んだ酒に呑まれる前に、いつの間にか、羽村の空気に飲み込まれてしまったようだ。
ふらり、時折揺れる羽村の頭に合わせてふわふわくすぐる髪の隙間に指を滑り込ませたくなる衝動とひたすら戦っていたとき。
「きもちいーのは男だけじゃん」
なんて、羽村が不意に、とんでもないことを言うから。
必死に何かと戦っていた俺の理性が、パチン、とはじけた気がした。
俺の気も知らずに隣で平気な顔して飲み続けるこいつを、どうにかして俺の方に向かせたくなって……最低の手段に出ることに、した。
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