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羽村が俺に対して距離を置こうとしていることには、最初から気づいていた。
絶対に踏み込ませない、そう書かれた服を着ているかのような、頑さ。
俺の方から、特別近付こうとも思わなかった。
羽村に執着する意味も理由もなかったし、そんな面倒なことに自ら足を突っ込む気もなかった。
このまま無難に『同僚』として過ごしていくつもり、だったのに。
飲みに行こう、と、誘ったのは。
ほんのわずかな、好奇心からだった。
何の理由で開かれたか忘れてしまうくらい、特別でもなかった会社の飲み会。
いつも通り適当に飲んでいたら、ふと、対角線上に羽村の姿を見つけた。
……見たことのない、笑顔。
隣の佐川さんや三浦さんと楽しそうに話す羽村は、俺が知っている羽村とは別人で。
アルコールの力だろうか、いつもは気張っている肩の力が幾分か抜けて、リラックスした様子だった。
表情も何だか柔らかく、朗らかに会話を楽しむ姿は、とても魅力的に見えた。
ほんのり上気した彼女の頬を見て、俺の頭を過ったのは。
……食いてーな、アレ。
なんていう、身も蓋もない感想だった。
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