羽村澪、というオンナ

6/6
前へ
/29ページ
次へ
  それは、打ち合わせ中に。 何気ない挨拶の中に。 微かに含まれた、“好意”の光。 きっと、他の誰も気付いてはいない。 公私混同しない神谷さんの態度は完璧だった。 なのに、俺にははっきりとわかった。 神谷さんも、羽村のことを、気に入っている、と。 気付いた瞬間、妙な胸騒ぎが起きたんだ。 いつもの調子なら、こっそり羽村に『良かったな。お前、片思いで終わらずに済みそーだぞ』くらいは言ってやったと思う。 その言葉にまたテンパる羽村を面白がって、笑って、酒飲んで。 俺と羽村の関係は、そういうので十分だ、と思っていたのに。 妙に、もやもやとした何かが胸に渦巻いて、気分が悪かった。 端的に言うとムカついた。 ……何に? いまとなればその答えは明白だったのに、そのときの俺は、大した問題にはしなかった。 ただ単に、羽村が神谷さんと上手くいくと予定調和過ぎて、面白くないからだ、と結論づけた。 .
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

96977人が本棚に入れています
本棚に追加