プロローグ

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 睨み合うように対峙した二人。緊迫した空気の中、沈黙が続く。  雲に隠れていた月が顔を出し、二人の姿がゆっくりと明かされていった。  肩まで伸びた白髪、白のローブが特徴的なのは逃走者である。髪はそれ自体が覇気を纏っているような、不思議な力を感じさせる色彩だ。老化と供に染まる白ではないことが、その顔立ちからも見て取れる。  逃走者はまだ十代を卒業して間もないだろう、幼さの残る顔をしている。あたかも聖職者を想わせる佇まいだが、ローブの背に金糸で描かれた竜の刺繍が、一国の王であることを証明していた。  相反するかのように、追跡者は黒。  黒い短髪をツンツンと尖らせ、黒のライダースジャケットに黒のレザーパンツ、黒のブーツを身に付けている。ジャケットの腕や胸の部分には、短いベルトとジップの装飾が施されていた。砂漠どころかこの大陸では見掛けない格好が、より不気味な雰囲気を引き立たせる。  例えるなら白蛇。漆黒を具現化させた服装とは裏腹に、その顔は気味が悪い程青白かった。鋭く獲物を睨みつける赤い瞳も相成り、その姿は人の皮を被った蛇を連想させる。
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