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どれくらい時が経っただろう。先に話の口火を切ったのは追跡者だった。
「逃げるのは止めたのかなァ? 砂漠の王様」
不適な笑みと供に放たれた言葉。これから始まるであろう殺し合いに喜びを隠せないといった表情だ。
「まず聞きたい事がある。父上を攫ったのはお前か? 今夜の襲撃者は複数犯のはずだが、お前は何者だ?」
対して砂漠の王と呼ばれた者は、この状況に困惑している。予知婆と呼ばれる砂漠一の占い師によれば、今夜の敵襲は五、六名ほどで、さほど強い相手ではないとの事だった。予知婆の占いが外れることは滅多にない。父の消息が立って間もなく現れたこいつは、無関係ではないだろう。直感がそう告げている。
「君の父上を狙ったのは僕じゃない。知ってる奴だけどね……それにしても、自己紹介は久しぶりだなァ」
どうにも間延びした応えだった。怪し気な雰囲気は増すばかりで、言葉が紡がれていく。
「今の僕に名はない。名乗るなら、サタンを継ぐ者ってところかなァ」
「何っ!? 貴様は悪魔……いや、堕天使か!!」
砂漠の王の驚嘆にさして反応もせず、是として見つめるだけの堕天使。そして無駄話はここまでとばかりに、闇のように深く暗い魔力が堕天使の全身から湯気のように立ち上る。
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