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夏の日、始まりの夜
「ふ……ぅ」
テスト勉強の合間に自動販売機へやって来た僕は一息ついた。
七月始めの空気は暑く、何をしなくとも肌が汗ばんでくる。
だから、無意識に涼しさを求めたのか。
僕は、大きく息を吸い込んで、
「……っ!」
ドキリ、と。
不意に、胸が高鳴った。
そして、実感する。
……また、この時期がやって来たのか、と。
ザアッ、と風が通り抜ける。
そこに含まれる夏の匂いを感じて、やはり心がかき乱された。
……何故だろう。
この時期になると、こんなにも心が騒めくのは。
大切な……とても大切な何かを忘れてしまっているような焦燥に駆り立てられるのは、何故だろう。
丁度、二年前……高校の一年生だった時の今頃からだ。
夏になると、気持ちが落ち着かなくなる。
何かを思い出さなくてはいけないのに、思い出せなくて……それはまるで、タチの悪い呪いの様。
思い出さないと苦しいぞと急かされているのに、思い出すことなんてありえないぞと言われているような、あまりにも不愉快な、予感めいた確信。
……そこまで考え、僕は苦笑した。
「なに柄にもなく、メランコリックに浸ってんだか」
内心の動揺を隠すように大きく肩を竦めて。
僕は、家路に着いたのだった。
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