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「千紘さ……っ!」
制止する僕の手を振り払い、彼女は出ていった。
追いかける理由さえ、見つけられなかった。
いつだって変わらずに、まっすぐぶつかってくる千紘さんのことが、好きだ。
それと同じくらい、まっすぐにぶつかりたいと、思っていたのに。
「……っ、最低、だ……」
感情だけで、突っ走って。
彼女を、傷つけた。
ずるずると、その場に座り込む。
堅い床の感触と同様に、心が芯から冷えていくようだ。
熱いのは、唇に残る、記憶だけ。
こんな、甘くて切ないキスの感触だけ、残して。
夜はただ静かに、更けていった。
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