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今頃ふたりはきちんと向き合っているだろうか。
そして…触れ合って、いるんだろうか。
不意に、最後に触れた、羽村さんの手の感触が甦る。
小さくて、柔らかい手だった。
その温度は低く、寒空に倣うように冷えていた。
暖めてあげたかった。
それが出来る立場の男に、なりたかった。
触れたかった。
髪に、手に、頬に、もちろん…唇に、だって。
だけど、それをしなくて良かった、とも思っている自分もいた。
ギリギリだったかもしれないけれど…嫌われなくて済んだから。
『憧れていた』と言ってくれた羽村さんに、幻滅されたくなかった。
それはいわば、強引になりきれない分、弱かったとも言えるのだけれど。
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