《2》

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  「振られたか、そうか。じゃあもう羽村(はむら)さんはウチには来てくれないのかな、残念だ」 「…」 大げさなくらい溜息を吐いたのは、正真正銘、血のつながった兄だ。 傷心の僕のことより、僕が好きだった彼女の方が気になるらしい。 なんて薄情な兄だろう。 僕はここに来て何度目になるかわからない溜息を吐いた。 …羽村さんと、あの交差点で別れてから。 しばらくタクシーに乗る気にもなれず、とぼとぼと歩いた。 羽村さんの幸せを願いながら歩く夜道は、いつもより暗く空気も重く感じた。 最後の握手も、別れの言葉も、すべてが気持ちを整理するためのものだったはずなのに。 それでもやっぱり割り切れないのは、仕方のないことだ…と、思いたい。 そのくらい、僕は彼女を好きだったんだから。 俯いたまま歩いていた僕は、不意に、まっすぐ帰って一人で部屋にいるシーンが浮かんだ。 暗い部屋に自分で電気をつけて、誰もいないのに『ただいま』を言う。 そんな想像をした途端…何だかいても立ってもいられなくなって、ここに来ていた。 翔(かける)兄さんのバー、『piece』。 兄とその妻が経営しているこのバーは、僕にとっては実家よりも近い存在だ。 構って欲しければ構ってくれるし、放っておいて欲しいときはただお酒を提供してくれる。 付かず、離れず、それでいて心地良い距離を保ってくれるのが有り難い。 ただ、兄弟というものは…何というか、近すぎて時に残酷だ。 .
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