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「あーあ、それにしても羽村さんの飲みっぷりは惜しいなあ。いい常連さんになってくれそうだったのに」
「…」
「お前の暗~い仏頂面より、羽村さんの可愛い笑顔が見たいよ、俺は」
「翔兄さん…」
いい加減、僕だって黙っていないぞ、とばかりに声を発した途端、涼(りょう)さんに遮られる。
彼女はテーブル席から下げてきたお皿を片手に、苦笑しながら僕の肩に手を置いた。
「仕方ないじゃない、振られたんだから。振られさえしなければ、響(ひびき)だってそうなって欲しかったでしょうよ。だからここに連れて来たんでしょう?」
「…」
振られた振られたって、そんなに何度も連呼しなくてもいいと思う。
だけど、図星だったから、何も言い返せない。
そうだ。僕は羽村さんをこの輪の中に囲い込んでしまいたかった。
僕の大事な人たちに彼女を紹介することで、僕と彼女の繋がりを示したかった。
そんな算段が、なかったとは言い切れない。
ちっぽけで狡い心を読み取られていたことが、また酒を不味くする。
苦々しい思いで手元のグラスを空にすると、少し眉を下げた翔兄さんが、タイミングを見計らって次のグラスを差し出した。
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