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“piece”の重いドアを開くと、カウンターには誰もいなかった。
反対に、ソファ席は満席。
どちらも男女混合のグループで、盛り上がっているようだった。
「おう、響。今日は早かったんだな」
にやりと笑う翔兄さんに、僕は眉を寄せる。
「嫌味だね。残業帰りだよ。とりあえずビールくれる?」
「はいよ。涼ー、響が来たぞー」
その呼びかけで、奥から涼さんが顔を出す。
「いらっしゃい、響。何か食べる?」
「うん。軽くでいいから、適当にお願いできるかな?」
「かしこまりました」
少しおどけてそう言った涼さんが、また奥の調理場へと戻った。
ちょうどいいタイミングで翔兄さんがグラスを差し出す。
「お疲れ」
「ありがとう」
冷たいグラスを受け取ると、僕はビールをぐっと喉に流し込んだ。
翔兄さんが入れたビールはどうしてこんなに美味いんだろう。
ふう、と息を吐いてから、独り言のように僕は呟いた。
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