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「ほらー! やっぱり変よ! 何かあったでしょ!」
「別に何も…」
「誤摩化したって駄目!」
ずいっ、と僕に詰め寄る千紘さんに、腰が引ける。
不快感はなくなった、けれど。
この人の、こういう強引なところはちっとも変わらない。
そして何故か、僕は彼女に逆らえなかった。
じっと見つめてくる千紘さんに降参して、僕は渋々白状する。
「…羽村さんに、会っただけだよ」
「響ちゃんの想い人?」
「そう」
「偶然?」
「偶然」
「どこで?」
「駅前で」
「一人で?」
「…彼女は、彼氏と一緒だったよ」
苦々しい気持ちまで思い返してしまい、目を逸らしながらまたビールをあおる。
…想い人、か。
まだ彼女を過去の人にできていないのだから、その表現は間違っていない。
小さく溜息を零した僕の肩を、千紘さんが軽く叩く。
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