《2》

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  「ねー翔くーん、こちらは?」 「ああ、弟の響(ひびき)」 端的に応えた翔兄さんの言葉に、ひっくり返ったような声が飛んできた。 「弟さん!? へえー、落ち着いてるねー? 年上かと思っちゃった」 「…」 特に何も言うことは、ない。 気を遣って目を逸らしたというのに、この女性は何故か、僕の方に体を開いていた。 「よろしくねー? 私、近江 千紘(おうみ ちひろ)。翔くんとは大学の同期なの。あ、もちろん涼ともねー?」 「どうも」 幾分、素っ気ない挨拶になってしまったかもしれない。 けれど僕に、いま他人を気遣う余裕はなかった。 苦笑しながら彼女の前にグラスを置いた翔兄さんが言う。 「あー駄目駄目、千紘。今日の響は傷心モードなんだよ。さっき振られてきたばっかなんだって。な?」 「…」 どうしてそう、勝手に僕のトップシークレットをぺらぺらと、しかもこんな初めて会った女性にまで簡単に話してしまうんだ? ふつふつとわき上がる苛立ちを抑え、グラスをあおる。 隣の女性…千紘さんは、首を傾げて僕を見た。 .
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