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「ねー翔くーん、こちらは?」
「ああ、弟の響(ひびき)」
端的に応えた翔兄さんの言葉に、ひっくり返ったような声が飛んできた。
「弟さん!? へえー、落ち着いてるねー? 年上かと思っちゃった」
「…」
特に何も言うことは、ない。
気を遣って目を逸らしたというのに、この女性は何故か、僕の方に体を開いていた。
「よろしくねー? 私、近江 千紘(おうみ ちひろ)。翔くんとは大学の同期なの。あ、もちろん涼ともねー?」
「どうも」
幾分、素っ気ない挨拶になってしまったかもしれない。
けれど僕に、いま他人を気遣う余裕はなかった。
苦笑しながら彼女の前にグラスを置いた翔兄さんが言う。
「あー駄目駄目、千紘。今日の響は傷心モードなんだよ。さっき振られてきたばっかなんだって。な?」
「…」
どうしてそう、勝手に僕のトップシークレットをぺらぺらと、しかもこんな初めて会った女性にまで簡単に話してしまうんだ?
ふつふつとわき上がる苛立ちを抑え、グラスをあおる。
隣の女性…千紘さんは、首を傾げて僕を見た。
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