《5》

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  「…千紘さん?」 呼びかけると、ハッとしたように千紘さんは僕から目を逸らす。 そしてきゅっと唇を噛み、残り少ないグラスの中身をあおった。 「やーだ、もう!」 そう言って僕の肩を叩いた彼女は、もう僕の知っている千紘さんに戻っていた。 「響ちゃんってば、やっさしーい!」 「…どうしてそこでおどけるかな?」 「おどけてなんかないわよ? あ、ちょっとごめん、トイレっ!」 「えっ?」 言うが早いか、彼女はスツールから素早く降りて、奥へと進む。 僕は唖然としながら、その背中を見送った。 くすくす、笑い声が耳に届く。 「千紘がそうやって茶化すのは、誤摩化したいときだよ」 「え?」 声のした方を振り返ると、笑いを噛み殺せていない翔兄さんが、僕にグラスを差し出していた。 それを受け取り、いまの言葉の真意を問うと、翔兄さんはまた笑みを深くする。 .
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