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「照れてんだよ。お前が馬鹿正直に感謝なんてするから」
「照れ…、え?」
「本当、お前は天然タラシの才能あるよな」
そう言った翔兄さんが、カウンターに体を乗り出し、僕の額を弾いた。
「照れてんの、千紘は。お前の台詞と、その視線に」
繰り返し、言い聞かせるような翔兄さんの言葉にも、僕はぼんやりと相槌を打つことしかできなかった。
「…千紘さん、が?」
「そーだよ。あいつ、あんな性格してるくせに、攻められると弱いんだよなー」
くっくっ、と心底可笑しそうに笑う翔兄さんの言葉が、耳をすり抜けていく。
それくらい、千紘さんが“照れた”ということは、僕には理解できない事象だった。
照れ…た? あの、千紘さんが?
いつも強引で、こっちが面食らうくらい、あけすけにモノを言う、あの人が。
ただ僕が素直に感謝した、それだけのことで。
頭の中で何度もその事実を確認するように繰り返す。
少しずつ意味を理解する頃には…何だか不思議な感情が僕を襲っていた。
この気持ちは何だろう、驚きと戸惑い、それから…?
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