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「翔くーん! もう一杯ちょーだい!」
「はいよー」
元気よく戻ってきた千紘さんの声にハッとする。
僕の隣に座った彼女は、いつものように明るく笑った。
「さー、飲むわよー!」
「はあ…」
「なーにその、気のない返事! ほんっと響ちゃんって可笑しいわよねー」
さっきまでとは打って変わって、普段通りの千紘さん。
一瞬だけ見せたあの顔は…一体、何だったんだろう。
僕は自分の気持ちすらはかりかねて、口元に手を当てた。
考え込んでいる僕を他所に、翔兄さんがグラスを差し出す。
「はい、千紘」
「わーい、ありがとー翔くん!」
それを受け取った千紘さんの手に、何故か目を奪われた。
細くて長い、指。
女性にしては大きい手、だけど華奢で薄い。
その手がグラスを包み込むのを見ていたら、…どうして、だろう。
いま、僕ははっきりと、彼女のことを。
女、なんだ、と。
何故だか強く、意識した。
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