《6》

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  いつの間にか、季節は変わっていたようだ。 僕は休憩室の窓から外の景色をぼんやり見つめていた。 この間まで寒い、と思っていたのに、外の日差しは随分明るく眩しい。 ここ最近は朝早く出社して、帰る時には日が暮れている。 “piece”にもなかなか顔を出せず、千紘さんにも一番最後に会ったのは数週間前だ。 あまり波のない生活を繰り返しているせいか、日中に窓の外を見ると、不思議な感覚に陥る。 まるで、硝子を隔てた別の世界のようだ、と遠く感じてしまう。 空調を完璧に整えられた社内にいると、どうも外の様子に疎くなるな、なんて思いながらコーヒーをすすった。 「神谷!」 名前を呼ばれて振り返ると、同期の松原が駆け寄ってきていた。 その表情はいつものように明るく、屈託がない。 松原は僕に追いつくとすぐにニッと笑って尋ねてきた。 「なあ神谷、今晩ヒマ?」 こういう笑い方をする時の、松原の依頼といえば。 すぐに思い当たった僕は、わざとにっこり笑顔を浮かべて答える。 .
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