《6》

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  「御園!」 彼女はすぐに見つかった。 立ち上がり、小さな段ボールに荷物を詰めているところだったからだ。 「…神谷先輩?」 僕の声に振り返った彼女は少し、驚いた顔。 周囲を見回し、こちらに注目している人がいないことを確認してからそっと歩み寄る。 「異動、だってね」 「…はい」 軽く微笑んだ御園の表情に、暗い影はなかった。 僕は少しホッとしながら、正直な感想を述べる。 「突然のことで、驚いたよ」 「すみません。こちらから、ご挨拶にうかがうべきでしたのに」 「いや…僕が勝手にしたことだから。悪かったね、手を止めさせて」 「とんでもないです、ありがとうございます」 相変わらず、美しい立ち振る舞いだと思う。 この間…+Dさんで対峙した時よりも、わずかに柔らかく感じる物腰に、僕は密かに驚いていた。 『この間の一件以来、変わった』と言っていた松原。 奴の言葉は、あながち嘘でもなかったらしい。 .
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