いつもの二人

10/11
前へ
/11ページ
次へ
「あ、いた!匡せんぱぁ~い」 「き、来た…」 甘ったるい声と共にきゃぴきゃぴした子がずかずかと教室に乗り込んできた。 私の悲鳴のような呟きを聞いた菜摘と氷垣くんが苦笑いする。 そう、これが私の悩みの種。 今年の新入生で、匡目当てでサッカー部のマネージャーをすることを決めたに違いない。 「勝手に教室入ってくんなよ、安藤…」 匡のうんざりした声にもこたえない彼女。 匡にまとわりつくのも嫌なんだけど、私の中ではあと一つ、嫌な理由があった。 「やだ、匡先輩。¨杏¨って呼んで下さいって言ってるじゃないですか~」 そうなんです。 この後輩、本名が安藤 杏花<アンドウ キョウカ>。 その杏花をもじって周りから¨杏<アン>¨と呼ばれてるらしい。 ……私と同じ名前。 だから匡が私の名前を呼ぶと、自分のことのように返事をしてくる。 私と匡が付き合ってるって知ってるはずなのにー。 私がぶぅっと頬を膨らませていると、匡が横からその頬をつついた。 ぶーっという情けない音と共に口の中の空気が抜ける。 「恥ずかしい音」 そう言って匡はけらけら笑う。 「う、うるさいなぁもう…」 杏花ちゃんがいるのにそれを無視して私に絡んでくれたことが嬉しくて、でもちょっと照れくさくて、私は匡の顔を見れず少し顔をそらした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

443人が本棚に入れています
本棚に追加