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まず父親がろくでもなかった。
その男は彼女の母親の再婚相手で、実の父親ではない。
成長するにつれ美しくなる娘を目の当たりにした義理の父――あとはお決まりのパターンである。
ただ、彼女も強い人だったから、一線は越えさせなかったようだ(彼女の言を信じれば)。
その代わりなのだろう、いつも生傷が絶えなかったように思う。
母親は、彼女が私たちと知り合った頃は既に薬浸けでまともに話もできなくなっていたらしい。
思えば一度も会ったことはなかった。
――昔は違ったんだけどね。
と、困ったような顔で笑って言っていた。
笑顔の裏に、悲しさ、寂しさ、憎しみ……様々な感情を必死に隠して。
彼女が母親のことに触れたのは、後にも先にもそのときだけだった。
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