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めり込んだケータイ電話のパネルの破片は液晶と言う監獄から解放、そして巣立ち。
四方八方に飛び交う精密部品達に少し母性本能がくすぶられ…ない…。
「すまぬ。
虫がいたのでな…つい、ぱしっと…」
目の前に佇む生物は小さな手のひらで頭に被った段ボールをぺしっと叩いてほざいた。
短い間だったが、今は無き足元に転がるガラクタとの思い出が走馬灯のように脳内で駒送りされる。
購入→帰宅→現状。
いや、本当に短いな。
ダッテ、キョウカッタンダカラ。
「おい、あほ段ボール…」
「な、なんじゃ…?」
身の危険を感じたのか、段ボールは数歩後ろに撤退。
その距離を縮めるように俺は数歩前方に進撃。
「な、一体なんじゃというんじゃ?!」
リビングの端に追い詰められた段ボールは、廊下に続く扉を背にしながらしびれを切らし、訳のわからん言葉を口走る。
それと同時に段ボールは貧相な膨らみのない胸板と、スカートの先端をそれぞれ左右の腕でガードする。
「誰が、貧相なリサイクル資源に発情するかよ!!」
資源ごみの奇っ怪な行動に思わずツッコミをいれてしまったが、まぁよい。
俺は立て続けに口を開く。
「だいたいなんだその口調は?
あれか、時代劇ファンか?
暴れん坊ですか?お主はは暴れん坊ですかー?
しかも…ん?」
「…ん……う…ったな…」
不意に手前の段ボールから小声が聞こえていいかけた発言を一時中断。
「パードゥん?」
その声のあまりの小ささにいかんせん、俺の聴力が限界を感じたらしく、かわりにお口がお耳をカバー。
アメリカン並みのネイティブ発音で段ボールを魅力。
「ひん…う…つったな…」
トーンの低いその声は段ボール内部を反響して、リビング全体に妙な雰囲気が漂う。
言葉の意味を理解してかせずか、段ボールは声のボリュームをプラス5してくれる。
「ひんうつったな?」
関羽…
時代劇の次は三國志か?
ダメだ…わけわかんね。
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