第一章 序

4/4
前へ
/22ページ
次へ
 心に恐怖心や焦燥感がごちゃごちゃになって何を考えたいいのか解らないほど混乱した私が出した結論はとても単純なものだった。  ただ逃げること。  一刻も早く”ソレ”から離れたい、助けてくれる誰かがいる場所まで行きたい。  そして、死にたくない、もっと生きていたい。  ただ、ただ、そんな感情が私の心を握りつぶすように支配する。 「いぃぃぃやぁぁぁぁぁあああ!!」  自然と口から出た叫び声。こんなのテレビドラマしか聞いたことない。  そんなどうでもいい考えが頭をよぎる。  これも現実逃避。  私の恐怖に支配された感情がオアシスのような心の休憩所を求めているんだ。  考えないようにしてたし、考える余裕もないけれど、確実に後ろから追いかけてくる”ソレ”の気配を感じる。  それも徐々に近くなりながら。  なんて都合のいいことだろう。  ”ソレ”見つけるまでは気配を感じなかったのに逃げ始めてからははっきりと”ソレ”の存在を感じてしまう。  気配を感じない方がずっとましなのに。  徐々に迫り来る死を感じながら必死に逃げるなんてただの拷問。  いっそ諦めて死を受け入れたほうが楽になれるんじゃないだろうか。  そう考えては死ぬのは嫌だと生物としての本能が死を拒否する。  結果、私は逃げることしかできない。  それにしても私この僅かな時間でどれだけのことを考えているのだろうか。  逃げ始めてからまだ数歩と進んでない。  目に映るすべてのビジョンがスローモーションだ。  そして楽しいことやら悲しいこと、ムカついたことまで、あらゆる思い出が頭の中で再生されていく。  ………………  ……うん、解ってる。  これは走馬灯。  心の何処かでは気付いてたんだけど受け入れたくなかった。 「私、死ぬんだ……」  いつの間にか地面に転がる私。視界に映るのは薄暗さで黒っぽくみえる赤色。  そう、私の血の色だ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加