第一章 序

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 そんな訳でわたしの近辺に隠れて付いてきている誰かがいても不思議じゃないんだけど。  足音は聴こえてきても人の気配は感じないのよね……。 「忍者だったりして……」  なんて馬鹿馬鹿しい。  声に出した瞬間から全否定。  こんな面白いこと考えた私のユーモアセンスを褒め称えたいくらい。  そんなあり得ないことを考えてないで現実的な対処をした方がいいわね……  私は手提げバックからスタンガンを取り出す。  一人で出歩くことがある女性には必需品である防犯グッツ。  もちろん私も例に漏れずそれなりの防犯対策は施しているわ。  こんなもの使わないにこしたことはないんだけど。  いつでも対処できるように警戒を怠らない。  相変わらず人の気配は感じないけど足音は時たま聴こえてくる。  その度に後ろを振り返るんだけど、誰もいない。  うん……不気味。  物陰に隠れているにしても動く影すら見つけられない。  ……まったくホラー映画じゃあるまいし、いい加減にしてほしいわ。 「ストーカーなんて本当に勘弁してほしい」  今までストーカーなんて被害にあったことのない私だけど。  この状況だったら一番自然な考えに行き着いた。  ……結論づけたら、また腹立たしくなってきたわ!  本当はしちゃいけないことだと頭では理解してるけど行動に移さないと気が済まない。  今日はもともと苛立ってたから仕方ないのよ。  そしてこれが人生最後となる過ち。 「ちょっとッ! コソコソしてないで姿を現したらどうなの!!」  もう一回後ろを振り返り言ってやった。  これで本当は誰もませんでした、なんてことになったら笑い話にでもすればいいわ。  このあと私はこの選択をしたことに後悔することになる。 「え……何これ……?」  声に反応したかは定かではないけど、ずっと隠れてた”ソレ”が姿を見せた。  私の背丈よりもずっと大きい暗闇に紛れる黒い”ソレ”はさっきまで聴いていた足音を響かせながら此方に歩いてくる。  嘘……こんなんじゃスタンガンなんて効きそうにないじゃない。  あまりの異常事態に思わず現実逃避。  けれど現実はどんどん迫ってきてすぐに目の前の現実へと私を引き戻す。  この世に生を受けて初めて感じる明確な死への恐怖が私をどうしようもないくらい混乱させる。
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