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「さてと、手でも洗ってこようかなァ」
賑やかなカミュとリッドの後ろを通り、ユーリがさっさとその場を離れようとする。
「待てリッド。ユーリ、カミュ」
「げっ」
リッドの首根っこを掴み、張りのあるバリトンが他2名を呼び止めた。ヴァンだ。
「昼間の件について、不問にしたわけではない。そもそもの目的が、俺に対するくだらないイタズラだったそうだな。いい度胸だ。その上、見ず知らずの女子を負傷させるなど、言語道断。この件に関わった者は全員、罰として川まで水を汲んでこい。20往復だ」
「ええええ~」
「問答無用!」
「仕方がないな。フルーツタルトはちゃんと3人分残しといてあげるから、いってらっしゃい」
ヴァンの出したペナルティに対し、不平不満をぼやいていた3人も、ウィルに笑顔で見送られると何も言えないらしく、渋々といった体で家を出る。
一気に人口密度が減り、そして静かになった。
「悪いね、にぎやかで」
「はい……あ、いいえ」
「気を遣わなくていいよ」
思わず頷いてしまったフィオナに、ウィルが笑う。
「さっきから気になっていたんですけど……私がこの家を訪ねたのって、昼間でした?」
「そうだけど? ちょうど、正午を回った頃だったかな。午前中に町に出かけていたヴァンを、リッドたちが待ち伏せして、罠を張っていたみたいだね」
同じ家で暮らしている人間に対して、罠を張る必要があるのか疑問だったが、そこはあえて聞かないことにする。
フィオナは、自分の記憶の矛盾に気付いた。
そもそも、フィオナが城から逃げ出したのは、深夜だったはずだ。
だが確かに、霧が晴れた後の、『森の中の家』の記憶は、明るい陽の光の下にあった。
不思議な影を追いかけている間に、夜を明かしたのだろうか? そのことに気付かないなんて、あり得るのだろうか? あの霧は、一体……?
次々と、疑問ばかりが浮かんでは消える。
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