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「あの影は……」
フィオナをここまで誘った、小さな影。
「影?」
「あ、いえ。なんでもないです」
不思議そうに聞き返すウィルに、慌ててかぶりをふる。まだ少し混乱しているらしい。
「あの!」
姿勢を正し、改めて目の前の4人に向き直る。誠心誠意を込め、フィオナは頭を下げた。
「私をここに置いてもらえませんか! 他に行くあてがないんです。皆さんのお邪魔になることは分かっています。でも、出来ることはなんでもしますので、お願いします!」
ぎゅっと目を瞑って、最後まで言い切る。昨夜一晩中、森をさまよい歩いて痛感した。今のフィオナでは、どこに行けばいいか、何をすればいいかすら分からない。
なんとも言えない沈黙が落ちた。
おそるおそる頭を上げると、ウィルとラウは困ったような――苦笑いを浮かべていて、ヴァンは相変わらず眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな顔をしている。ジークは、人形のように無表情だ。
(やっぱり、ダメ……なのかな……)
沈黙が続き、失望が胸に飛来したとき、
「俺は、はじめからそのつもりだったんだけど……なぁ、ヴァン?」
ちらり、とウィルが上目遣いで傍らのヴァンに視線をやる。
「オレもオレもー。てか、オレらも後から来た人間だし。な、ジーク」
「……構わない」
ウィルに賛同したラウに意見を求められ、それまで一言も発さなかったジークがようやく口を開いた。短い言葉ではあったが、イメージしていたよりも穏やかな声だった。
ウィルに促され、ヴァンが小さく息を吐く。
「働かざるもの食うべからず、だがな」
どうやら、この家の最終決定権はヴァンにあるようだ。高い位置にある頭を見上げると、鋭い視線が真っ直ぐにフィオナを射貫いた。
アメジストのような、紫闇の瞳。
怖い、という思いが先行して、それまでまともに見れなかった顔は凛々しく、己を曲げない真っ直ぐな気性と自信が表れていた。
「あの……?」
「……家事を分担する条件でなら、置いてやってもいい。と言っている」
こうしてフィオナは、7人の王子様の家で暮らすことになった。
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