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そう途方に暮れそうになった時――ふわり、と視界がかすみがかった。
「霧……?」
一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思った。だが、頬に触れる白い靄はひんやりと湿っていた。
「……?」
人影が、見えた気がした。
小さな影だ。子どもくらいの。
「誰かいるの?」
確かにいる。
笑い声が聞こえた気がした。
影は、人とは思えない素早さで靄の中を飛び回り、白雪姫を混乱させた。
夢かもしれない。そう思った。
だが、影はまるで白雪姫を誘うように、奥へ奥へと進んでいく。
つられるように足を踏み出す。疲労はあったが、先ほどより体力が回復した気がした。
進むべき道が見つかったからかもしれない。
その正体がなんであれ。
「……家……!?」
霧が晴れだした頃、赤い屋根が視界に飛び込んできた。
二階建ての、おもちゃのように可愛らしい家だ。
森の中だというのにちゃんと門構えがあり、その内側には、人の手で丹念に育てられたのであろう花々が、美しく花壇に咲き誇っている。
人がいないとは思えなかった。緊張と期待を胸に、家の門をくぐる。
この時にはすでに、不思議な影の存在は消えていたが、フィオナもまた、新たに出現した不思議な家に、意識を奪われていた。
「すみません」
ドアの前で声をかけるが、返事がない。
もう一度声をかけ、ノックをする。試しにドアノブに手をかけると、鍵がかかっていなかった。
「どなたかいらっしゃらないんですか……?」
断りもなく家に侵入するのははばかられたので、ドアをあけた隙間から首を突っ込み、中の様子を窺う。その時――
「すみませ……」
がぃん。
ごぅん。だったか、ごぇん。だったかもしれない。
ともあれ、衝撃と共にそんな音が鈍く脳天に響き、白雪姫は意識を失った。
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