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無言だった。
最初のやり取り以来、僕達は口を開くことなく並んで座っていた。
当然だ。
オリエンテーションや仕事と割り切るならまだしも、普段の僕は人見知りが激しい。出会ったばかりの、それも相手が子供とくれば喋れるわけがなかった。何を話していいのか分からないし、どんな態度で接していいのかが分からない。
なのに、僕は立ち上がれないでいた。
きっとそれは、場の束縛だと思う。三人の人間がいて、中々そこから抜け出すタイミングが掴め無いあの状況。決してそれは名残惜しいとかではなくて――空気を読むことに対する不確かさ、自身がいなくなった後に二人の間で交わされるかもしれない会話、言葉に出来ないような色々事が科学薬品のようにどろどろに混じり合い、僕を恐怖させる。
だから、これは同情なんかじゃない。
――同情。
気付いてしまえばそれは、ただそれだけのことだった。
無くしたスカート。ぼろぼろのランドセル。よく見ると少女は雨でも無いのに濡れていた。
そして、“不揃いな”黒髪。僕はそれを伸ばしかけなのだと解釈したけれど、事実は全くの逆だった。
“切られた”んだ。
おそらくは、ここにないスカートとぼろぼろのランドセルと同じ理由で――。
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