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人工の太陽が傾き、火星の赤茶けた土が余計赤みを増している。
灼熱の大地に落とされたような感覚だ。
まるで地獄にいるような――。
ライフルの狙撃で右腕と右足が大破している。
身体中の裂傷が血を吐く。
痛覚が残っていること自体奇跡と言える状態だ。
虫の息で安全への逃避を図り、筋肉の塊は芋虫のように地を這う。
一体、何の為にこうも生き延びようとしているのかと自問する。もがくことをやめれば、解放されるのだろうが――。
生への迷いが脳裏を過ったその時、ぼけた視界に焦げ茶の荒いスラックスを履ぎ、靴下にサンダルの男が現れた。
視線を上げると、そこに立っていたのは自分自身だった。
やや垂れ目で、眉は力強い。
鏡で見る、ラテン系ブラジル人の男。
くわえた煙草を投げ捨て、その自分自身がひょろりとした手を差し伸べる。
掌の残っているゴツゴツと節くれだった左手で、差し出された手を握った。
こんな所で死なれては困る。その自分自身が、そう言った気がした。
――
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