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全長60メートル程の民間宇宙船「メアリ」は、20階建てのビルを横倒ししたような大きさである。
その流線型で扁平なボディは、暗い海を漂う鯨を連想させる。
60メートルの宇宙船は、空飛ぶファミリーカーという表現がふさわしい。
今日もどこへ向かうとも無く、ぶらぶらと月のそばを漂っていた。
これでも警察官として「パトロール」の仕事をしているのである。
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「フランツ!どこだフラァンツ!」
40代も中盤を過ぎたハゲオヤジの野太い声が通路に響く。
彼はジョン・ベック。
ベージュのコットンパンツに黒のフライトジャケットは彼のお決まりの服装だ。
青年期は綺麗な栗色の頭髪が生えていたが、ハゲが目立ってきた頃に潔くすっかり剃ってしまった。
スキンヘッドは彼のバイキングのような風貌によく似合っている。
栗色の口髭を蓄えるこの大男は一見凡庸な中年だが、その鷹のごとき双眼は数多の血を見て来た。
やや肉の余った腹は好物のビールによるものだ。
頬はこけ、腕や胸板の筋繊維は太い。
宇宙船内の床は高度に発達した重力制御技術によって地球と同程度の重力に保たれており、この男の闊歩を可能にしている。
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