8人が本棚に入れています
本棚に追加
大急ぎでリビングを駆けると、テレビのリモコンを踏んづけてしまった。
パチッという音の瞬間、テレビが明るく変わった。どうやら夕方のニュースの時間らしい。見覚えのあるアナウンサーが、重みを帯びた顔でニュースを読んでいる。
しかし今は耳を貸す暇すら、小島 裕太にはなかった。夜の7時から、高校の同窓会があるのだ。
本当に久しぶりに会う。
もう十年か…永いようで、どこかあっという間だった気がする。
ふいに笑みがこぼれた。急いでいた手足も、気づけば普通の速度に戻っていた。
「いけないいけない、早くしなきゃな」
クローゼットの最前列に吊されたお気に入りのコートを羽織った。その時、裕太の自然にこぼれた笑みは、一瞬にして凍りついた。
『商店街裏で起きた皆川寛さん殺人事件の犯人は、株式会社木下電通の社員、花巻薫、28才と確定する確かな証拠が警察から発表されました。花巻薫は未だ逃走中とのことです』
花巻 薫、聞き慣れた名前だった。
テレビに映る花巻の顔は、裕太の初恋の相手とまったく同じだった。
最初のコメントを投稿しよう!