8人が本棚に入れています
本棚に追加
「うっ」
僕を睨みつける花巻の鋭い瞳と目があってしまった。
すぐに目をそらしたが、きっと彼女は今もまだ、僕のことを睨み続けていることだろう。
「どうしたんだ小島?お前今日変だぞ…?」
どうやら前野は、花巻が殺人犯であることを知らないようだった。いや、前野だけではない。ここにいる他の人物達も、なにも知らない。
裕太には、彼らの何気ない笑顔がうらやましかった。
「ちょっと、トイレに…行ってくるよ」
「ああ‥顔でも洗ってすっきりしてこいよ」
裕太の気を正すように、前野は肩を叩いた。
そのまま花巻の方は振り返らずに、まっすぐトイレに向かった。
その途中に、ふとこう思った。
何も知らないのは、世界で最も平和だと、その時本当に思った。
しかし裕太は、何も知らないのもまた、世界で最も恐ろしいと、これから実感することとなるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!