第一段 春は、曙

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春は夜が空ける頃がよい。窓から見える山々がほんの少し雪化粧を残し、その雪化粧から伸びる細く長い雲。その両者が陽の光を浴び、色彩の移りゆく様は、何とも言えない美しさを醸し出しているではありませんか。 夏は、夜がよい。昼の蒸し暑さが一段落した時に、満月や三日月など様々な表情の月を観ると、ホッと人心地付くのは私だけではないでしょう。また、月の無い新月の時も良いものです。昼間はあんなに大きな声で主張していた蝉達が、蛍の恋路を邪魔せぬ様に一言も洩らさず見守っているのは、何とも言えない清々しさが感じられます。また暑さを和らげてくれ、時折部屋の灯りに煌めく雨も良いですね。 秋は夕暮れが良い。夕日が朱に染まりゆくなか、重なり離れ、また重なりながら山に帰っていく様は助け合っているようで微笑ましく思います。また遠くで雁が列を成して行く様はなにやら寂しげな感じがします。夕日が沈み微風が秋の香りを運ぶ時一緒に秋の虫の声も運んでくれるのは非常に趣があります。 冬は朝の早い時が良い。雪が降り積もった時、ほんのりと窓から差し込む雪明かり。また雪は無くとも霜の降りた時の微かな明かりは、何とも言えぬ奥ゆかしさを纏っているようです。このような寒い時に、火鉢などの暖房器具に火を入れるため慌ただしく動く事も、冬の原風景と言えるでしょう。暖房に火が入り、私達の身体も絡んだ糸が解れる様に寒さから解放された昼頃、火鉢の中の炭が燃え尽き真っ白になっている様子は、感謝と共に少し微笑ましく感じるのです。
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