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黄金婆事件が終結してから二日後、休暇をとっていた片名恵美が出社して来た。
「大丈夫かね、へんな君……いや、かたな君」
眼鏡の下の片名の目が険しく吊り上るのを見て、慌てて大角が名前を言いなおした。
「少し、痩せたんじゃないか?」
「はあ、そうですかあ?」
けだるそうに答える片名の顔を、大角がマジマジと見詰める。
「君、ちょっと眼鏡を取ってみてくれないか」
「はあ?なんですか、急に」
真剣な眼差しで顔を寄せる大角に、片名がドギマギして尋ねる。
「……じつに不思議だ。礼子さんを始めて見た時、どこか見覚えのある顔に思えたんだが、君に面影が似ているんだ」
「そうですか?」
「なるほど、分かったぞ。彼女は君の、遠い親戚のお姉さんなんだね」
「勝手に決めないで下さい、何の関係もない赤の他人ですよ」
顔を紅潮させて否定する片名を、凝視したまま大角が首を捻る。
「そうか……それにしても似ている。自分でもそう思わんかね」
「あたくし、あの人と会ったことないんです」
「会ったことがない?」
大角が、驚いたように聞く。
「だって、あの人が周辺に現れただけで、四十度近い高熱が出ちゃうんですよ。直接会ったら死んじゃうかも」
「それも不可解な話だ、でも何かしら因縁があるんだろうな」
「ところで、空野さんは元気でした?」
空野の名を聞いたとたん、大角は決まりの悪そうな顔をし、立っていた片名に椅子を勧めた。
「空野君といえば、君にまた折り入って頼みがあるんだ」
座った片名に、大角が手を合わせた。
たまっていた仕事を片付けるため、編集部に泊り込んでいた大角の机の電話が鳴リ響いたのは、昨夜の午前三時のことである。
「やあ、旦那……俺だよ」
受話器から聞こえてきたのは、原筒美の声であった。
「……あ、どうも」
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