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「ちがうっつーの、だいたいその人、とっくの昔に死んでんだろーが!礼子さんに決まってるだろう。もし彼女を『あの世で愛魔ショー』に引っ張り出せたら視聴者は釘付けになるぜ。なんせ、そこいらにいるタレントやモデルなんか、足元にも及ばないくらいの美貌の持ち主だからな」
「まあ、礼子さんがメディアデビューしたら、国民的アイドルになるのは間違いないでしょうな」
二人とも天原のことを想いながら、声を弾ませる。
「俺もそう思ったから、さっそく空野に電話したんだ」
「なるほど」
「そしたら、けんもほろろに断られちまったよ」
「そうだろうと思いました」
大角は、空野の潔癖そうな顔を思い浮かべた。
「そんな俗悪な番組に出演させて、彼女の名を貶めるつもりですかって言われたよ」
「私には、空野君の気持ちもよく分かります」
「かといって、恩義ある青葉さんの頼みも断れねえ」
「まさに板ばさみ、むじなさんにとってはつらいところですな」
「旦那まで、そうつれない言い方するなよ」
「べつに、つれなくなんてしてませんよ」
大角が苦笑しながら続ける。
「私には、むじなさんの気持ちもよく分かっているつもりです」
じっさい大角には、原筒美の胸のうちが手に取るように分かる気がした。原筒美が言っているテレビ出演うんぬんは口実に過ぎず、本当は自分と同様、ただ純粋に天原礼子の顔をもう一度見たいだけなのだ。
「だったらよ、旦那からも空野に頼んでみてくれよ」
「私がですか?」
「ああ、旦那の方が親しいみたいだし、俺はあまり彼に好かれてないようだからな」
原筒美の口調が悲哀を帯びてくる。おそらく自分が頼んでも同じだろうが、看板作家の頼みは断れない。ダメモトで頼んでみるか……
「そして、デスクも空野さんに電話したというわけですね」
編集室の窓から差し込んできた午後の陽光が、片名の白い顔を照らす。
「そういうことだ」
大角が、まぶしげに目を細める。
「で、どうでした?」
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